関西学院創立百周年(1989年平成元年)に、關學文藝部OBにより『關學文藝 100周年記念特別号』が発行されました。これを契機として、翌年『別冊 關學文藝』が誕生。以後年2回の発行を続け、関学文藝部OB以外の同人・会員も加わり、現在(令和5年11月10日)第67号を発行。 編集:浅田厚美 発行者=伊奈忠彦(同人代表)

2022年10月12日水曜日

『別冊關學文藝』第64号掲載の         浅田厚美「メリーゴーランド」が            神戸新聞同人誌評に取り上げられました。

 神戸新聞朝刊 同人誌評

   2022年令和4年9月24日(土)朝刊。




 


  物語は心の澱(おり)をどこまで描くことができるのだろう。

「別冊關學文藝」64号 浅田厚美「メリーゴーランド」。

 入院していた父が亡くなり、波留は姉志穂美と葬儀の手配を

する。10年前に死んだぽっちゃり体型の母と似ていた志穂美

は、いつのまにか捨てたように贅肉(ぜいにく)が消え、

身軽で自由に見えた。一方、波留は家族の誰とも似ておらず、

そのせいで自分はこの家の子どもなのだろうか、と疑問を持ち

続けてきたが、皮肉にも今では太っていた母に似ているのは

波留自身。

 生前、母も便秘に苦しんでいたと志穂美から聞き、波留は体

内を健康に保とうと努力するが、幼い頃から母や姉に否定され

続けてきたせいで、自分は健全な体に相応(ふさわ)しい存在

だろうか、と悩みもする。体内に溜(た)まった毒素はまるで

母親が波留に吐き続けた言葉の毒にも思えるのだった。

 家族の一員だと確信できる思い出の一つでもあれば波留の現

在は違っていたのだろうか。消えゆく家族への鎮魂のような

品だった。           (作家・葉山ほづみ)