■神戸新聞朝刊 同人誌評
2022年令和4年9月24日(土)朝刊。
物語は心の澱(おり)をどこまで描くことができるのだろう。
「別冊關學文藝」64号 浅田厚美「メリーゴーランド」。
入院していた父が亡くなり、波留は姉志穂美と葬儀の手配を
する。10年前に死んだぽっちゃり体型の母と似ていた志穂美
は、いつのまにか捨てたように贅肉(ぜいにく)が消え、
身軽で自由に見えた。一方、波留は家族の誰とも似ておらず、
そのせいで自分はこの家の子どもなのだろうか、と疑問を持ち
続けてきたが、皮肉にも今では太っていた母に似ているのは
波留自身。
生前、母も便秘に苦しんでいたと志穂美から聞き、波留は体
内を健康に保とうと努力するが、幼い頃から母や姉に否定され
続けてきたせいで、自分は健全な体に相応(ふさわ)しい存在
だろうか、と悩みもする。体内に溜(た)まった毒素はまるで
母親が波留に吐き続けた言葉の毒にも思えるのだった。
家族の一員だと確信できる思い出の一つでもあれば波留の現
在は違っていたのだろうか。消えゆく家族への鎮魂のような作
品だった。 (作家・葉山ほづみ)