2021年令和3年2月
大阪文学学校「小説同人誌評」細見和之
『別冊關學文藝』第61号掲載の、浅田厚美
「花火の島」は、十一歳年少の男性にどんどん
引き寄せられてゆく四十七歳の女性の心理を
描いている。
ある日「私」は職場の同僚の「土屋さん」から
花火大会に誘われる。チケットが余っているか
らということだったが、その花火大会に出かけ
てから、「私」はどんどん土屋さんにはまって
ゆく。ラインを送り続けたり、職場でケーキの
差し入れをしたり、駅で待ち伏せしたり。それ
こそストーカーのようになってしまうのだ。土
屋さんはその後、遠い職場に転出してゆく。
どちらにも家族がある身で、読んでいてはら
はらさせられるのだが、女性にかぎらず恋愛
心理の押しとどめようのない動きがよく描か
れている。
2021年令和3年1月29日 掲載
神戸新聞同人誌評(野元正:作家)
小説は微妙に揺れる人の心の裡(うち)を描く。
「別冊關學文藝」61 浅田厚美「花火の島」。
私立大学附属小学部事務員の私は47歳。人妻。
中学部の同僚で11歳年下の妻子ある土屋に家
から車で1時間ほどの島で行われる花火大会に
誘われる。花火が大好きな私は迷った末、彼の
誘いを受ける。
花火は見応えがあった。2人は次があるなら同
行を約束。以後、私は頻繁にラインを送るが、土
屋からの返信は間遠に。思いが募り、私はストー
カーまがいの行為を繰り返す。だが翌年、彼は黙
って九州の新設校に転勤してしまう。あれから3年、
私は独りで2度目の花火大会へ行ったが当然、土
屋は来ない。恋愛感情が絡む2人の思いを天秤に
喩(たと)え微妙な心理描写が秀逸だ。
同誌の美馬翔「キャベツ畑のサーガ第三章ー花
野由美の思い出」は弱小劇団を中堅にまで育てた
女性を、同僚の視点描いた秀作。