関西学院創立百周年(1989年平成元年)に、關學文藝部OBにより『關學文藝 100周年記念特別号』が発行されました。これを契機として、翌年『別冊 關學文藝』が誕生。以後年2回の発行を続け、関学文藝部OB以外の同人・会員も加わり、現在(令和5年11月10日)第67号を発行。 編集:浅田厚美 発行者=伊奈忠彦(同人代表)

2021年1月31日日曜日

別冊關學文藝第六十一号同人誌評

2021年令和3年2月

大阪文学学校「小説同人誌評」細見和之

 

 『別冊關學文藝』第61号掲載の、浅田厚美

「花火の島」は、十一歳年少の男性にどんどん

引き寄せられてゆく四十七歳の女性の心理を

描いている。

 ある日「私」は職場の同僚の「土屋さん」から

花火大会に誘われる。チケットが余っているか

らということだったが、その花火大会に出かけ

てから、「私」はどんどん土屋さんにはまって

ゆく。ラインを送り続けたり、職場でケーキの

差し入れをしたり、駅で待ち伏せしたり。それ

こそストーカーのようになってしまうのだ。土

屋さんはその後、遠い職場に転出してゆく。

どちらにも家族がある身で、読んでいてはら

はらさせられるのだが、女性にかぎらず恋愛

心理の押しとどめようのない動きがよく描か

れている。 

 

 

2021年令和3年1月29日 掲載

神戸新聞同人誌評(野元正:作家)

 小説は微妙に揺れる人の心の裡(うち)を描く。

 「別冊關學文藝」61 浅田厚美「花火の島」。

私立大学附属小学部事務員の私は47歳。人妻。

中学部の同僚で11歳年下の妻子ある土屋に家

から車で1時間ほどの島で行われる花火大会に

誘われる。花火が大好きな私は迷った末、彼の

誘いを受ける。

 花火は見応えがあった。2人は次があるなら同

行を約束。以後、私は頻繁にラインを送るが、土

屋からの返信は間遠に。思いが募り、私はストー

カーまがいの行為を繰り返す。だが翌年、彼は黙

って九州の新設校に転勤してしまう。あれから3年、

私は独りで2度目の花火大会へ行ったが当然、土

屋は来ない。恋愛感情が絡む2人の思いを天秤に

喩(たと)え微妙な心理描写が秀逸だ。

 同誌の美馬翔「キャベツ畑のサーガ第三章ー花

野由美の思い出」は弱小劇団を中堅にまで育てた

女性を、同僚の視点描いた秀作。