2015年平成27年5月1日発行
編集人 浅田厚美 発行人 松村信人
発行所 「別冊關學文藝」事務局(澪標 内)
表紙(石阪春生) カット(柴田 健)
創作
島の生活 (名村 峻)
もう一人の力道山 (江竜喜信)
愛と希望の旅立ち (多冶川二郎)
壷 (山添孤鹿)
雑草ガーデン/ツェツェ人 (中嶋康雄)
「文学逍遥 伊奈文庫」再録(抄)(第10回)
(伊奈遊子(ゆうし))
ノンフィクション
さゝやかな放送ウラばなし (和田浩明)
エッセイ
四肢麻痺 (冨田明宏)
靴下を繕いながら (塩谷成子)
特集・別冊關學文藝五十号に寄せて
石阪春生(祝 別冊關學文藝) / 大塚滋(壮年期) / 疋田珠子(『別冊關學文藝』と昔の同人雑誌 / 野元正(『別冊關學文藝』と神戸 / 細見和之(『別冊關學文藝』五十号に寄せて / 山田兼士(ご挨拶 五十号vs五十号) / 海部洋三(一筋の川) / 和田浩明(老いの坂) / 森岡久元(三十四の小旅行) / 浅田厚美(書くということ) / 石川憲三(合評会の風景)
編集後記 浅田厚美 松村信人
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本誌掲載の名村峻「島の生活」が第10回神戸エルマール文学賞の
候補作に選ばれました。
各選者の選評は次の通りです。
(大塚滋 評)
多分、神戸ポートアイランドに住む初老(?)の筆者
の暮らしを語る「歩く人」「泳ぐ人」「裸族たち」の三
編からなる。タイトルの、世間から隔絶した離島の暮ら
しの感じは裏切られる。多くの近代的設備や大学や病院
が整った、島自身が都会である。そこで人生を達観する
大人の文章だ。
最初の作品「歩く人」の主人公は腰に支障があり、登
山用のステッキを頼りにしている。島を歩き、やがて志
を立てて、島の南に浮かぶ空港島へ橋を渡ることを決意
する。
文章がやさしさと明るさを保ちながら、あとの話(空
港島の帰りに動けなくなったこと、溺れそうになったこ
と、サウナで人が死んだこと)など危ない話を人生にか
らませながら語り継いで行く。
(浅田厚美 評)
腰をいため普通に歩くことができなくなった主人公健
介はポートアイランドとおぼしき人工の島で暮らしてい
る。神戸という街にもはや必要とされなくなった自分を
感じ、アイランダー(島人)となる決心をしたのである。
かつては仕事で海外を飛び回り東京でも長く暮らした彼
だったが、今は普通ではない歩き方でただ島をまわって
いる。しかしちょっとした冒険で島の南海上に浮かぶ空
港まで行った帰りに彼は自力で立ち上がれなくなるので
ある。この彼の姿は滑稽でかなしい。
近くにあるホテルのプールで水中歩行を試みて溺れか
けた後は、同じ場所にあるジムとサウナに通うようにな
る。そこで知り合った島にあるシューズメーカーの会長
がお風呂で老人の死体を見つける。その出来事によって
日常のなかの死を感じ取っているのは健介自身である。
老人が亡くなった後のお風呂で彼は夢を見る。決して
渡らぬと決めた街への橋が消えて、箱庭のような小さな
島だけが足元に残っているのである。
生きていくということをじっくりと考えさせられる作
品である。
(舟生芳美 評)
神戸の人工島に暮らす彼、澤田健介が欲しいものは普通に
歩けることだ。幾つかの外国の街を訪れたが、今では橋を
渡って街に行きたいとも欲しない。かつて人生を、仕事を
謳歌した男の無常観が伝わってくる作品だ。
(野元 正 評)
神戸のポートアイランドらしい人工島がこの小説の舞
台だ。腰を痛めた主人公健介は、「街」に通ずる橋を渡
ることを止めて、人工島の中だけで生きるアイランダー
(島人)となると決心した。そして、始めたのは不自由
な歩き方で島中をくまなく歩き、彼なりの島の地図を作
ることだった。彼にとって街はよそよそしく遠ざかり、
すでに行き場のない迷路と化していた。一年あまりの島
の彷徨で少し元気を取り戻し、冒険心がいて、普通でな
い歩き方で島の先にある空港島へ行った帰