2017年平成29年5月10日発行
編集人 浅田厚美 発行人 松村信人
発行所 「別冊關學文藝」事務局(澪標 内)
表紙(石阪春生) カット(柴田 健)
創作
婆娑羅の母 (浅田厚美)
室津のキツネ (森岡久元)
雀蜂気分 (美馬 翔)
敗戦の日まで (和田浩明)
孤老の世界 (江竜喜信)
詩
東大寺南大門金剛力士像体門(山添孤鹿)
ソピー (松村信人)
うそっぱち (中嶋康雄)
不在 (中嶋康雄)
路地 (中嶋康雄)
水飲み鳥 (中嶋康雄)
枇杷の庭 (中嶋康雄)
ブログ「文学逍遥 伊奈文庫」再録(抄)
(第14回) 伊奈遊子(ゆうし)
エッセイ
わたしの映画偏歴 (名村峻)
トランプタワー (塩谷成子)
文芸トピックス
編集後記 浅田厚美 松村信人
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(2017年平成29年7月15日号)
「図書新聞」同人誌評(志村有弘)
森岡久元「室津のキツネ」評
森岡久元の「室津のキツネ」(別冊關學文藝第54号)が面白い。
室津の旅籠のあるじ野本仙山は、人をかつぐ癖があった。江戸から
長崎へ行く大田南畝が仙山の旅籠に宿泊することになり、南畝を尊
敬する仙山は、そのことを喜びながらも、室津のキツネが修験者を
誑かした話をし、修験者から貰った護符を見せ、その匂いを南畝に
かがせるのだが、それは仙山一流の人をかつぐ行動。軽妙な文章、
随所に見せる洒落が巧み。
これも一つの名人芸というべきか。
神戸新聞
2017年平成29年7月29日土曜日掲載
同人誌評 (野元 正・作家)
美馬翔 『雀蜂気分』 評
共働きの ひろ子は庭でスズメバチの巣を見つける。
駆除費用はこぶし大の巣で3万円という。夫の浩
は、家の問題はいつも人ごと。ひろ子は土、日に
は駆除を、と焦る。
そんなとき、以前劇団に所属していた際にアパ
ートが同室で一番仲がよかった女性・芳香から公
演案内のはがきが届くが、嫉妬から破り捨てる。
ひろ子にも劇団で脚本家として自立していく夢が
あったが、子育てと劇団活動が両立できずに退団
した。芳香の公演にもたまには行きたいけど夫は
協力的でないと、断るつもりの電話でつい愚痴が
出る。
スズメバチ駆除はある夜、芳香がバイクでやっ
て来て、要領よく処理した。殺さず山に返しに行
くというので、ひろ子は同行しビジネスホテルに
泊まる。ひろ子は、芳香の男女関係など思い出話
をするうちに、戯れの情事を仕掛けるが拒否され
たことで初めて、自立し生きる方向を見いだした
ような気分になるー。現代社会の女性の生き方に
灯明をともす好編だった。
浅田厚美 『婆娑羅の母』 評
同誌の浅田厚美「婆娑羅の母」。婆娑羅という
母を演じる「疑似家族」がテーマの作品で印象に
残った。