関西学院創立百周年(1989年平成元年)に、關學文藝部OBにより『關學文藝 100周年記念特別号』が発行されました。これを契機として、翌年『別冊 關學文藝』が誕生。以後年2回の発行を続け、関学文藝部OB以外の同人・会員も加わり、現在(令和5年11月10日)第67号を発行。 編集:浅田厚美 発行者=伊奈忠彦(同人代表)

2017年5月8日月曜日

埋門 うずみもん




































































2017年平成29年4月発行
発行所:澪標みおつくし
著者 :森岡久元 (別冊關學文藝 同人)
作品初出誌『別冊關學文藝』
   中橋稲荷の由来  第46号(平成25年)   
   埋門       第52号(平成28年)



逃げろ、
逃げ切れ、
甲州街道!
捕まれば
死罪の
男と女
死んでも
この恋捨てられぬ

江戸犯罪史実から掘り起こされた時代小説の傑作
圧倒的迫力の狐憑き裁判を描く『中橋稲荷の由来』
伝馬町牢抜け男女の哀切な恋の逃走劇『埋門』

時代小説の醍醐味を
たっぷり堪能できる二編の注目作品





2017年平成29年5月10日(水)
山陽日日新聞に、
毛利和雄氏(元NHK解説委員)の
書評が掲載されました。






 

















書評寄稿 毛利和雄さん
森岡久元著「埋門」を読んで
尾道市出身の作家森岡久元さんの新作。
江戸犯罪史から掘り起こした傑作時代
小説2編から構成される。

 「中橋稲荷の由来」は、
ある日突然商人の妻が狐
憑きにあう。亭主は、妻の
災厄を取り除いてもらお
うと御嶽山で修行した祈
祷師、紺屋善兵衛に依頼
し、そのお蔭で下総八幡
の舟橋大明神から遣わさ
れた狐を追いはらうことが
できた。ところが、妻に憑
いていたのは舟橋だけで
はなかった。もう一匹の
狐中橋も追い払ってほし
いと頼むが、善兵衛は言
を左右にして応じようと
しない。これはおかしい
と、夫は町役人に相談し、
善兵衛を奉行所に訴え
る。町奉行所での狐憑き
裁きの結果は如何に。こ
の後は謎解きのネタを明
かしても悪いので省略す
るが、奉行所での狐憑き
の裁きは、われわれ現代
人には経験できなくなっ
た世界が圧倒的迫力で描
かれる。

 表題作「埋門」は、湯屋
で他人の衣類を盗んだ廉
で伝馬町牢屋敷に送られ
タバコ屋のおつる。当
年23歳。男女の牢はもち
ろん厳重に隔てられてい
るのだが、ある時ふと三
十すぎの大宮無宿庄次郎
を見かける機会があり、
二人は恋に堕ちる。抜け
駆けは死罪。その禁を犯
し、二人は牢抜けし甲州
街道に逃避行を図った。
捕まれば死罪の男と女の
哀切な恋の逃走劇を描
く。
 埋門とは城郭の石垣、
築地、土塀などの下方を
くりぬいて造った小門、
穴門のことで、伝馬町牢
屋敷には、三か所の埋門が
あった。そのうち一つは、
役所側の敷地と死罪場が
ある北側の庭とを隔てる
練塀に築かれていた。捕
らわれたおつるは、この
埋門をくぐって短い生涯
を終えたのである。
 時代小説、エンターテ
イメント小説に円熟し
た境地をみせる森岡さん
の最新作だが、この2作
は江戸時代の犯罪、裁判
記録の中から題材を得て
描かれている。あとがき
の中で森岡さんは、「一枚
一枚時代の扉を開きなが
ら、そこに確実に生きた
人間の姿をもとめて、過
去へと分け入ってゆく作
業は、時代小説を書く醍
醐味だとあらためて感じ
ています」との作家の心
境を披露している。発行
は澪標(大阪市)、130
0円。



2017年平成29年6月18日(日)
中国新聞 「読書」の頁の中の
「郷土の本」のコーナーで、
『埋門』の紹介記事が掲載されました。


江戸期の事件 光当てた2編

 尾道市で幼少から青年期までを過ごした作家森岡久元さん
(76)=東京都=が時代小説「埋門(うずみもん)」を
刊行した。江戸期の犯罪、裁判記録を掘り起こし、そこに登
場する庶民らの物語2編を収めている。
 表題作「埋門」は、江戸・伝馬町牢屋敷の獄中で恋に落ち
た男女が主人公。いち早く出獄した女と、脱走を果たした男。
逃避行を図りながらも捕まって死罪になる悲哀を描く。もう
は1編の「中橋稲荷の由来」も江戸の町が舞台。商家の妻に
取りついたキツネを巡る不可思議な騒動と、町奉行所の裁き
が軽妙に展開する。
 森岡さんは会社経営を経て、高校、大学時代に励んだ小説
執筆を再開。尾道が舞台の作品も多い。今回の時代小説は、
古記録を調べるだけではなく、関係地を訪ねるなどして紡い
だ。「過去に分け入り、実際に生きた人々の姿を求めていく
妙味を楽しんでもらえれば」と話す。
1404円。澪標(大阪市中央区)。