関西学院創立百周年(1989年平成元年)に、關學文藝部OBにより『關學文藝 100周年記念特別号』が発行されました。これを契機として翌年『別冊 關學文藝』が誕生。以後年2回の発行を続け、関学文藝部OB以外の同人・会員も加わり、現在に至っています。2024年令和6年11月10日に第69号を発行。    編集:浅田厚美 発行者=伊奈忠彦(同人代表)

2011年5月24日火曜日

別冊關学文藝 第四十二号

































2011年平成23年5月20日発行

編集人 浅田厚美  発行人 松村信人

発行所 「別冊關學文藝」事務局(澪標 内)

表紙(石阪春生) カット(柴田 健)


創作
はづかし病(浅田厚美)
寒蜆(塩谷成子)
お別れ(和田浩明)
霧の中( 森岡久元)


ノンフィクション
忘れ得ぬ人たち(連載第三回)(多冶川二郎)


書評
思考する読書(VOL.2)(今西富幸)



枷 (海部洋三)                
瑠璃姫伝承ーはにかみ池古墳余聞ー(山添孤鹿)
晩秋(松村信人)


エッセイ
万葉の歌碑を巡る 老生の明日香(全篇)(山口 毅)
転任のエキスパート(竹内のぞみ)


ブログ
文学逍遥 伊奈文庫(第2回)(伊奈忠彦)


文芸トピックス(同人雑誌時評 ほか)

編集後記  浅田厚美  松村信人
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




浅田厚美「はづかし病」が

第6回神戸エルマール文学賞を受賞しました!




「エルマール6号」(2012年11月発行)
に選考各委員の選評が掲載されていますので
転記させていただきます。

【島 京子】文章の明晰度
 大阪南部の村で、人の目や評判に縛られる生活をしていた、四十八
恵子が、ごく自然にみえる方法で村からの脱出をはかる。恵子の
心のこりは、十一人いる父方の従兄妹のうちの一人、五歳下の紗代だ。紗代は村の風習に忠実に生き、女子大の体育科に進む。ーーー
 まづ惹かれたのは文章の明晰度。複雑な村の人間関係、行動のすべ
恥づしいものとしているような”個”を書いて個性にした腕はたし
である。

     ・
 【大塚 滋】 文化の本質に迫る
 結婚して常識的な女性の幸福の道を歩んでいる恵子、学校の部活動
熱心で、しっかりと就職活動をして望みの会社に就職することに成
功した娘の文緒、そして、スポーツに熱中し、体育科に進み、独身の
まま、今は村の家に戻って母の介護をして過ごしている五歳年下の従
姉の紗代。 淡々とした文章のなかで、三人の性格や価値観の違いが
くっきりと描かれる。その中で、そこそこに化粧し、よい服装をして
、ごく普通の女性の生活を送っていることを「そんな恥ずかしいこと
きへん」と紗代に言われて恵子がひるむところで、読者も立ち止ま
る。化粧にても生活のありようにしても、男女を問わず個性が薄れ
ていくようなこんにち、紗代の言葉は意外に文化の本質に触れる問題
げかけてもいるようだ。深みのある、すぐれた小説だ。

     ・
【野元 正】さりげなく世情に問う
 主人公恵子は四十八歳、古い風習や因習が今も息づく農村で育ち、
古い共同体の中で何事にも優等生として振る舞うことを心がけ、ま
た期待されてきた。やがて同僚の教師と熟慮の末、結婚して村を脱
出した。夫婦仲のよい夫は校長就任。聡明な娘は大卒の就職氷河期
を乗り越え、第一志望内定を獲得する。恵子は地域の民生委員もし
ている。恵まれた環境で人生すべてが家庭的にも社会的にも順調だ
と自負していた。ところが幼馴染みの従姉の紗代は、体育系の大学
を卒業後、スポーツ用品会社に就職し、ゴルフインストラクター
し、お見合いもせず、結婚する気もない。そして紗代は会社も辞め、
太った身体ですべてが、〈衰退の予兆を示しているような暗い家の
中で〉なりふり構わず、認知症の父親と喘息の闘病を続ける母親の
介護に専念している。そんな紗代から、恵子は、〈満たされたい、
心の平穏がほしい、認められたい、命を繋ぎたい〉と人間の本能に
従って生き、しあわせそうに見える恵子の今を、下等で醜いことで
恥ずかしくないの? と見下される。これは現代社会において一見
しあわせそうに見える人生が、果たして充実したものかどうかを
えさせられ、世間の評価を気にして努力し、模範的に生きることは、
本当はとても恥ずかしいことではないのか、と力まずさり気なく世
情に問うている秀作といえよう。

       ・
【三田地 智】生き方を決めるものは何か
 世間の目を気にする村の仕組みに従って生きる。主人公の恵子はそ
ういう生き方を選び、一生懸命やってきた。しかし、心の奥では村の
価値観に違和感を持っていた。いつかは波風を立てずにこの村を出よ
うと考え、大学を出て教師になると、親や周囲から文句をつけられな
いような相手を選んで結婚し、平穏に村を出た。作者は、恵子の人生
の設定を周到に安定から成功へと巧みに描いている。対照的に五歳年
下の従姉の紗代は中学高校大学とバレーボールに熱中し、化粧や女の
子らしいお洒落を恵子が勧めても「そんな恥ずかしいこと」と嫌うば
かり。縁談もすべて断り、四十歳を過ぎた現在、両親の介護をひとり
引き受けている。民生委員もしている恵子が見かねてアドバイスをす
るが全く受け入れない。「なんであんたはそんなふうやの、このまま
でいいの?」と立ち入って言う恵子に「私は恥ずかしくてたまらん。
なんでわからへんの? けえこ姉ちゃんはかしこいのに」とじっと見
据えられ、恵子は衝撃を受ける。無理のない筆致で書き進み、鋭いア
ンチテーゼで締め括る作者の構成力、発送の面白さに感心した。結末
から誘発される多様な解釈もまた魅力。






下記の添付ファイルは、ブログ『柳葉魚庵だより』より。

『別冊關學文藝』第四十二号について紹介していただきました。



 
  伊奈遊子さんから『別冊關學文藝第42号』が届けられました。
 前号の第41号が届けられたのが、昨年の11月。それから約半年の間に、東日本大震災をはじめ、いろいろなことがあったようで、またあっという間のような気もします。
 伊奈さんは長年、太極拳の指導・普及にこつこつと努力されている傍ら、幅広い読書にも励み、書評をご自身のブログ「文学逍遥 伊奈文庫」に収められています。そしてその書評の一部がこの「別冊關學文藝」に掲載されています。
 椎名麟三、吉行淳之介、安岡章太郎、森敦、井上光晴などの往年の作家のほか、今回は南木佳士〈阿弥陀堂だより〉、西村賢太〈苦役列車)などの現代作家についても取り上げられています。
 「阿弥陀堂だより」は、私は寺尾聰、樋口可南子、北林谷栄出演、小泉堯史監督の同名の映画の方しか見ていませんが、山村に引っ越してきた夫婦の何気ない日常に心安らぐ思いのする佳品でした。今度、原作の方も読んでみたいと思います。
 また、『別冊關學文藝第42号』には、小説、詩、エッセイ、ノンフィクションなど幅広い作品が掲載されています。
 伊奈さんは自らの文学逍遥を「18歳の頃に帰るためにリハビリテーションのようなもの」と書かれていますが、定年退職後、読書を通じて、長い間遠ざかっていた青春時代を心の中に蘇らそうとする方も多いのではないでしょうか・・。
 団塊の世代には、これから、まだまだ長いかもしれない人生が待っていますが、どう過ごすか、それぞれ大変ではありますね・・。
 
  南側のカーテン揺らし夏の入る