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2011年平成23年5月20日発行
編集人 浅田厚美 発行人 松村信人
発行所 「別冊關學文藝」事務局(澪標 内)
表紙(石阪春生) カット(柴田 健)
創作
はづかし病(浅田厚美)
寒蜆(塩谷成子)
お別れ(和田浩明)
霧の中( 森岡久元)
ノンフィクション
忘れ得ぬ人たち(連載第三回)(多冶川二郎)
書評
思考する読書(VOL.2)(今西富幸)
詩
枷 (海部洋三)
瑠璃姫伝承ーはにかみ池古墳余聞ー(山添孤鹿)
晩秋(松村信人)
エッセイ
万葉の歌碑を巡る 老生の明日香(全篇)(山口 毅)
転任のエキスパート(竹内のぞみ)
ブログ
文学逍遥 伊奈文庫(第2回)(伊奈忠彦)
文芸トピックス(同人雑誌時評 ほか)
編集後記 浅田厚美 松村信人
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浅田厚美「はづかし病」が
第6回神戸エルマール文学賞を受賞しました!
「エルマール6号」(2012年11月発行)
に選考各委員の選評が掲載されていますので
転記させていただきます。
【島 京子】文章の明晰度
大阪南部の村で、人の目や評判に縛られる生活をしていた、四十八
歳の恵子が、ごく自然にみえる方法で村からの脱出をはかる。恵子の
心のこりは、十一人いる父方の従兄妹のうちの一人、五歳下の紗代だ。紗代は村の風習に忠実に生き、女子大の体育科に進む。ーーー
まづ惹かれたのは文章の明晰度。複雑な村の人間関係、行動のすべ
てを恥づしいものとしているような”個”を書いて個性にした腕はたし
かである。
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【大塚 滋】 文化の本質に迫る
結婚して常識的な女性の幸福の道を歩んでいる恵子、学校の部活動
に熱心で、しっかりと就職活動をして望みの会社に就職することに成
功した娘の文緒、そして、スポーツに熱中し、体育科に進み、独身の
まま、今は村の家に戻って母の介護をして過ごしている五歳年下の従
姉の紗代。 淡々とした文章のなかで、三人の性格や価値観の違いが
くっきりと描かれる。その中で、そこそこに化粧し、よい服装をして
、ごく普通の女性の生活を送っていることを「そんな恥ずかしいこと
できへん」と紗代に言われて恵子がひるむところで、読者も立ち止ま
る。化粧にしても生活のありようにしても、男女を問わず個性が薄れ
ていくようなこんにち、紗代の言葉は意外に文化の本質に触れる問題
を投げかけてもいるようだ。深みのある、すぐれた小説だ。
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【野元 正】さりげなく世情に問う
主人公恵子は四十八歳、古い風習や因習が今も息づく農村で育ち、
古い共同体の中で何事にも優等生として振る舞うことを心がけ、ま
た期待されてきた。やがて同僚の教師と熟慮の末、結婚して村を脱
出した。夫婦仲のよい夫は校長就任。聡明な娘は大卒の就職氷河期
を乗り越え、第一志望内定を獲得する。恵子は地域の民生委員もし
ている。恵まれた環境で人生すべてが家庭的にも社会的にも順調だ
と自負していた。ところが幼馴染みの従姉の紗代は、体育系の大学
を卒業後、スポーツ用品会社に就職し、ゴルフインストラクターを
し、お見合いもせず、結婚する気もない。そして紗代は会社も辞め、
太った身体ですべてが、〈衰退の予兆を示しているような暗い家の
中で〉なりふり構わず、認知症の父親と喘息の闘病を続ける母親の
介護に専念している。そんな紗代から、恵子は、〈満たされたい、
心の平穏がほしい、認められたい、命を繋ぎたい〉と人間の本能に
従って生き、しあわせそうに見える恵子の今を、下等で醜いことで
恥ずかしくないの? と見下される。これは現代社会において一見
しあわせそうに見える人生が、果たして充実したものかどうかを考
えさせられ、世間の評価を気にして努力し、模範的に生きることは、
本当はとても恥ずかしいことではないのか、と力まずさり気なく世
情に問うている秀作といえよう。
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【三田地 智】生き方を決めるものは何か
世間の目を気にする村の仕組みに従って生きる。主人公の恵子はそ
ういう生き方を選び、一生懸命やってきた。しかし、心の奥では村の
価値観に違和感を持っていた。いつかは波風を立てずにこの村を出よ
うと考え、大学を出て教師になると、親や周囲から文句をつけられな
いような相手を選んで結婚し、平穏に村を出た。作者は、恵子の人生
の設定を周到に安定から成功へと巧みに描いている。対照的に五歳年
下の従姉の紗代は中学高校大学とバレーボールに熱中し、化粧や女の
子らしいお洒落を恵子が勧めても「そんな恥ずかしいこと」と嫌うば
かり。縁談もすべて断り、四十歳を過ぎた現在、両親の介護をひとり
引き受けている。民生委員もしている恵子が見かねてアドバイスをす
るが全く受け入れない。「なんであんたはそんなふうやの、このまま
でいいの?」と立ち入って言う恵子に「私は恥ずかしくてたまらん。
なんでわからへんの? けえこ姉ちゃんはかしこいのに」とじっと見
据えられ、恵子は衝撃を受ける。無理のない筆致で書き進み、鋭いア
ンチテーゼで締め括る作者の構成力、発送の面白さに感心した。結末
から誘発される多様な解釈もまた魅力。
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下記の添付ファイルは、ブログ『柳葉魚庵だより』より。
『別冊關學文藝』第四十二号について紹介していただきました。
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